ArcBlue C42は、フルサイズのカラー冷却カメラ、波動歯車式赤道儀、構図回転機構、専用タッチスクリーンを一つにまとめた天体撮影システムです。第2回では、光がセンサーに届いてからRAWデータとして保存されるまでの、C42の画像処理を順に紹介します。

この北アメリカ星雲は、焦点距離105mmのカメラレンズとC42で撮影した81枚のフレームから仕上げたものです。
これまでの天体撮影では、一晩に数十〜数百枚のフレームを撮影し、帰宅後にパソコンへ読み込んでから、ダーク・フラット・バイアスによるキャリブレーション、星の位置合わせ、スタックを行い、ようやく画像の仕上げに入っていました。手作業で進めると、この前処理だけで2時間以上かかります。
C42は、この前処理の多くをカメラの中で行います。センサーの読み出しから補正を始め、撮影中にHDR合成を行い、撮影後にはカメラ内でスタックまで進めます。一方で、色やコントラストをどう仕上げるかという創作の部分は、加工を足さないRAWデータとして撮影者の手元に残します。
この記事で紹介する5つのポイント
- フルサイズの冷却センサー:Sony IMX410とTEC冷却
- 読み出しの段階から始まる補正:天体撮影向けに独自開発したISP
- 撮影中のHDR合成:最大29段を16bitのRAWへ
- カメラ内でのスタック:星の位置合わせからスタックまで
- 加工を足さないRAWデータ:前処理の有無を選べる記録と保存
本ブログでは、C42を4回に分けて紹介しています。第1回ではシステム全体の構成を、第2回では撮像性能とカメラ内処理を取り上げます。第3回は追尾とガイドのしくみ、第4回は現場での撮影と運用です。C42で撮影した作例は、撮影データとあわせて別の記事で紹介します。
フルサイズセンサーとTEC冷却

C42は、約2,400万画素、画素サイズ5.94 µmのSony IMX410を採用しています。量子効率は80%以上、読み出しノイズは1.5e-未満です。後に続くすべての処理は、ここで得られるデータの質から始まります。
フルサイズで撮る意味

同じレンズを使った場合、フルサイズセンサーはAPS-Cサイズのセンサーより広い範囲を一度に写せます。大きく広がる星雲や天の川を、レンズ本来の画角のまま捉えられます。
画素サイズ5.94 µmの1画素あたりの受光面積は、画素サイズ2.9 µmのセンサーの約4倍です。受光面積が大きいほど、同じ露光時間で得られる信号が多くなり、淡い星雲の階調を記録しやすくなります。
フルサイズの画角を活かすには、イメージサークルがフルサイズをカバーするレンズや望遠鏡を使います。
改造なしでHαを写す光学窓
C42のセンサー前の光学窓は、天体撮影向けのUV/IRカット特性を持ち、紫外線と赤外線を遮りながら、Hα(波長656 nm)付近の光を通します。透過範囲は350〜750 nmです。
一般的なカメラは、Hαの多くを遮る赤外カットフィルターを内蔵しているため、赤い散光星雲を写すには天体改造が必要でした。C42では改造をしなくても、そのままHαを記録できます。基本的なUV/IRカットのために別のフィルターを足す必要もありません。
光学窓に取り付けるフィルター
光学窓には、C42専用のマグネット式フィルターを直接取り付けられます。最初のラインアップは、光害カット用のブロードバンドフィルターと、デュアルバンドのナローバンドフィルターです。取り付け位置がマウントの種類に関係なく同じため、Sony E、Nikon Z、Canon EF、M68のどのバージョンでも同じフィルターを使えます。市街地に近い空でも、カラーセンサーのまま星雲の輝線を強調して撮影できます。
このほか、Canon EF版は2インチフィルターに対応するフィルタードロワーを内蔵し、M68版は2インチのフィルタードロワーやフィルターホイールを組み合わせられます。Sony E・Nikon Z版は各マウント向けの一部のクリップインフィルターに対応し、対応を確認した製品の一覧を公開する予定です。そのままでは取り付けられないフィルターのために、ガラスを入れ替えて使える3Dプリント用のフィルター枠のデータもオープンソースで公開します。
光学窓はTEC冷却と連動した結露防止ヒーターで温め、冷却したセンサーの前が曇るのを防ぎます。レンズや望遠鏡の前玉の結露対策は、別途必要です。
感度設定
ISO感度は100〜6400、アナログゲインは0〜36 dBの範囲で設定できます。1コマの露光時間は最長600秒です。
TEC冷却が効くところ

センサーは温度が高いほど、光とは関係のない信号(暗電流)が増え、長時間露光ではこれが熱ノイズとして画像に現れます。C42はTEC(ペルチェ素子)による冷却で、センサーを周囲温度より最大30°C低く保ちます。ΔT 30°Cは絶対温度ではなく周囲温度との差で、最大出力時の値です。たとえば気温20°Cのときに30°Cの差が得られれば、センサーは約−10°Cになります。
TEC冷却はクローズドループで制御し、設定した温度でセンサーを安定させます。温度を一定に保てることは、キャリブレーションの精度にもつながります。撮影フレームとダークフレームの温度条件がそろうため、次に紹介するダーク補正を正確に行え、同じ温度・設定のダークを繰り返し使えます。
付属の99 Whバッテリー1個で、冷却を使った撮影は約2時間、冷却なしの追尾と撮影は約4〜5時間です。一晩撮影する場合は、2個目のバッテリーとのホットスワップや、65 W以上のUSB-C出力を持つモバイルバッテリー・ポータブル電源からの給電を組み合わせます。
読み出し時の補正:天体撮影向けISP

一般的なカメラのISP(画像処理プロセッサー)は、昼間の写真を見栄えよく仕上げる処理を前提にしています。C42のISPは天体撮影向けに独自開発したもので、センサーの読み出し段階から、天体写真の前処理として必要な補正を行います。
| 補正 | 内容 |
|---|---|
| 不良画素の補正 | ホットピクセルなど、特定の画素に出る異常値を補正します。 |
| ダーク補正 | 暗電流による熱ノイズを差し引きます。一部のダークデータは出荷時から内蔵しており、必要に応じて追加で撮影します。 |
| フラット補正 | 周辺減光や、センサー前のほこりの影を補正します。 |
| バイアス補正 | 読み出し時のオフセットを差し引きます。バイアスデータは出荷時から内蔵しています。 |
キャリブレーションフレームの撮影と管理
キャリブレーションフレームの撮影も、カメラが手順をまとめて行います。
- ダーク:レンズに蓋をして、露光時間・ISO・目標温度を設定します。C42が光漏れを自動でチェックし、センサー温度が安定するのを待ってから撮影します。TEC冷却で温度条件をそろえられるため、同じ温度・設定のダークは繰り返し使えます。長時間露光のたびにダークを撮り直して、撮影時間がほぼ倍になることはありません。
- フラット:撮影時のレンズ・焦点距離・絞りのまま、フラットパネルなどの均一な光源に向けます。露出はC42が自動で決めて撮影します。
- 管理:撮影者が撮ったキャリブレーションデータはSSDに保存し、補正ライブラリで管理します。
ミラーレスや一眼レフのカメラ内処理が画像の見た目を整えるためのものだとすれば、C42のカメラ内処理は、パソコンで行っていたキャリブレーションをカメラに移したものです。補正の内容そのものは、天体写真の前処理と変わりません。
これらの前処理をカメラ内で行うかどうかは、撮影者が選べます。カメラに任せて撮影後すぐにスタックへ進むことも、前処理をせずにデータを保存し、後からパソコンで自分の手順で処理することもできます。
ISPを支える開発の積み重ね
C42のカメラ内処理は、開発チームが長年続けてきた天体カメラの自作から生まれています。共同創業者のShen Feichen氏は2016年から、ARMプロセッサーとFPGAを一つにまとめたSoCでイメージセンサーを直接制御する天体カメラを自作してきました。センサーの設定をプロセッサーが受け持ち、読み出したデータをFPGAで処理してからメモリーに書き込む構成で、2017年には海外の技術メディアHackadayでも紹介されています。読み出しの段階から補正を始めるC42のISPは、この構成の延長線上にあります。
もう一人の共同創業者Chen Song氏が共著者として参加した2026年の論文では、IMX455を2基搭載し、FPGAと組み込みLinuxでカメラ内処理を行う天体カメラの性能を、実験室での測定と実際の観測の両面から評価しています。この論文は、米国の天文学誌PASPに掲載されました。
撮影中の処理:HDR合成

皆既日食のコロナや、明るい中心部と淡い周辺部が並ぶ星雲のように、明暗差が1枚の露光に収まらない被写体があります。C42のHDR合成(HDR RAW Fusion)は、露光時間を変えた複数のフレームを連続して撮影し、カメラ内でダーク・バイアス・フラットの補正を行ってから合成します。皆既日食の撮影では、1/10,000秒から1秒までの5段階の露光を2秒足らずで撮影します。

合成結果は16bit浮動小数点のDNGとして記録します。IMX410の単一露光は14bit・14段ですが、合成後は最大29段のダイナミックレンジを一枚のRAWに収められます。明部と暗部をマスク処理で手作業で合成する必要はありません。

このHDR処理は、製品の機能として後から加えたものではありません。開発チームは2015年、センサーを独自に解析し、自作のFPGA基板でセンサーのデータを直接扱う試作カメラを作りました。撮影・補正・処理を一つの系として試すためです。その後、2017年の米国ワイオミング州、2024年4月、2026年8月のスペインと、皆既日食のたびに試作機を持ち込み、この処理を検証してきました。
HDR合成は静止画だけでなく、明るさが大きく変わる場面を連続して撮影するタイムラプスにも使えます。昼から夜へ、あるいは日食の前後のように、露出を決めにくい場面でもHDRで記録できます。試作機では、最短露光0.0002秒、ダイナミックレンジ29段で皆既日食のHDRタイムラプスを撮影しています。
HDR処理エンジンは完成しており、現在はタッチスクリーンの操作画面を開発しています。
撮影後の処理:カメラ内スタック

撮影したフレームは、タッチスクリーンのアルバムで管理します。アルバムでは元のフレームと処理後の画像を並べて表示し、撮影情報の確認やタグ付けもできます。
スタックは、アルバムで使うフレームを選び、カメラ内で星の位置合わせとスタックを行います。結果はプレビューとヒストグラムで確認できます。この機能は、現在ベータ版でテストしています。
タッチスクリーンでは、画像をピクセル単位まで拡大して確認でき、トーンカーブ、ホワイトバランス、彩度といった基本的な調整も行えます。処理結果は別ファイルとして保存し、元のRAWデータは上書きしません。パソコンやインターネット接続がなくても、撮影地で確認から仕上げの手前まで進められます。

撮影しながらタッチスクリーン上で結果を積み上げていくライブスタックも、現在テストしています。フレームの回転も考慮して位置合わせを行います。
今後のアップデートでは、撮影後にアルバムでダーク・フラットを適用する機能も追加します。この場合も、元のフレームには手を加えません。
カメラ内スタックには、Drizzle Integrationモードも選択式で加える予定です。画素サイズ5.94 µmのIMX410は、焦点距離500 mm未満では星像に対して画素が粗くなる(アンダーサンプリング)ことがあります。Drizzleは複数のフレームのわずかなずれを利用して、実効的なサンプリング、星像の形、色の再現を改善し、より高い解像度のスタック画像を得る方法です。
RAWの出力と保存

| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 記録形式 | 1フレームごとに14bit非圧縮FITS、または浮動小数点DNG。HDR合成時は16bit浮動小数点DNG |
| 保存先 | カメラ内蔵の8 GB eMMC、標準規格のNVMe SSD(最大2 TB、容量は選択・交換可能)。専用画面には128 GBの内蔵ストレージ |
| 書き出し | Wi-Fi 5、USB 2.0、ギガビットEthernet(大量のRAWファイルの転送にはEthernetが適しています) |
| スマートフォンへの共有 | タッチスクリーンからQRコードまたはNFCで画像を転送 |
一晩に数百枚のフレームを撮影しても、SSDに保存したままカメラ内で処理を進められます。仕上げの段階では、FITS・DNGのデータをパソコンに移し、使い慣れた画像処理ソフトで色やコントラストを詰めていきます。
開発状況
2026年10月時点の、画像処理に関わる機能の状況は次のとおりです。
| 状況 | 機能 |
|---|---|
| ベータ版で動作(V0.1〜V0.3) | FITS/DNG記録、冷却制御、Wi-Fi・Ethernet・USBでの書き出し、アルバム(元画像と処理後の画像の並列表示)、ダークによるキャリブレーション(工場ダーク/自分で撮影したダーク、光漏れチェック) |
| ベータ版でテスト中(V0.4) | 撮影後のカメラ内スタック(プレビュー・ヒストグラム付き)、フラット・バイアスを含むキャリブレーション、QRコード・NFCでのスマートフォンへの画像共有、タッチスクリーン上のライブスタック(テスト中) |
| 開発中・予定 | 撮影後にアルバムで行うキャリブレーション、Drizzle Integrationモード、HDRの操作画面(HDR処理エンジンは完成) |
開発中・予定の項目は開発の方向性を示すもので、各機能の提供日を確定するものではありません。仕様や機能は、今後の開発で変更される場合があります。
実機レビュー
天体写真家のNaz氏(Naztronomy)が、米国デスバレーでC42を実際に使ったレビュー動画を公開しています。持ち運びやすさ、モジュール構成、撮影の流れ、GWIによるガイド、価格に見合う価値を、現地での撮影を通して確認しています。自身の撮影スタイルではあまり使わない機能や、C42が向いている撮影者についても話しています。
NaztronomyによるArcBlue C42のレビュー動画(YouTube・英語)Kickstarterと国内での取り扱い
C42はKickstarterで支援を受け付けています。希望小売価格は4,999米ドル、Kickstarterでは Super Early Bird価格の3,799米ドルです。支援の価格、リターンの内容、配送については、Kickstarter上の記載が優先します。初回出荷は2027年2月の見込みです。
天文ショップグラビティは、ArcBlue製品の日本国内での取り扱いを予定しています。Kickstarterで支援された方を含め、日本国内でのサポートと修理は天文ショップグラビティが担当します。セット内容と技適の状況は、第1回の記事にまとめています。
次回
第3回では、Pulsar赤道儀、GWI、HALO CAAを中心に、C42の追尾とガイドのしくみを紹介します。
参考:ArcBlue C42 公式サイト/Kickstarter/開発状況
主な仕様(撮像・記録)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| センサー | フルサイズ Sony IMX410 CMOS(カラー) |
| 有効画素数 | 約2,400万画素 |
| 画素サイズ | 5.94 µm |
| 量子効率 | 80%以上 |
| 読み出しノイズ | 1.5e-未満 |
| ISO感度/アナログゲイン | ISO 100〜6400/0〜36 dB |
| 光学窓 | UV/IRカット(透過範囲350〜750 nm、Hα付近を透過) |
| ダイナミックレンジ | 単一露光:14段/HDR合成時:最大29段 |
| 記録形式 | 14bit非圧縮FITS/浮動小数点DNG/HDR合成時は16bit浮動小数点DNG |
| 冷却 | TEC冷却(ΔT 30°C) |
| ストレージ | カメラ:8 GB eMMC+最大2 TB SSD(SSDは別売または利用者が用意)/専用画面:128 GB |
| 通信・接続端子 | Wi-Fi/ギガビットEthernet/USB-C/Bluetooth/USB 2.0 |
| バッテリー | 99 Wh。冷却ありの撮影:約2時間/冷却なしの追尾と撮影:約4〜5時間。ホットスワップ、65 W USB-Cの外部給電に対応 |
仕様は2026年10月時点のものです。製品版で変更される場合があります。