ArcBlue C42は、フルサイズのカラー冷却カメラ、波動歯車赤道儀、構図回転機構、専用タッチスクリーンをひとつにまとめた天体撮影システムです。お手持ちのカメラレンズや望遠鏡と組み合わせて使います。

2026年8月12日の皆既日食
2026年8月12日、スペインの皆既日食。C42のHDR合成で撮影

2026年8月12日、スペインで皆既日食が起きました。太陽が月に隠れるわずかな時間に、C42はカメラ内でHDR合成を行い、明るいプロミネンスから淡いコロナまでを1枚のRAWデータに記録しました。

このカメラの開発は10年以上前に始まりました。2012年、2人のアマチュア天文家が「市販されていない天体カメラを自分たちの手で作りたい」と考えたことが出発点です。基板から自作したカメラでの試写、2024年4月の皆既日食での試作機による撮影を経て、2025年6月に最初のC42が組み上がりました。

C42の開発の歩み
左から、2017年に基板から自作したカメラ、2023年11月のエンジニアリングサンプル、2024年4月の皆既日食で望遠鏡に取り付けた試作機、2025年6月に組み上がった最初のC42試作機

これまでの天体撮影では、ミラーレス/一眼レフカメラと、天体専用の冷却CMOSカメラのどちらかを選ぶ必要がありました。ミラーレスや一眼レフはPCや制御機器を持ち出さずにカメラ単体で撮影できますが、センサーを冷却できず、RAWデータにも天体撮影には不要なカメラ内処理が加わることがあります。冷却CMOSカメラはセンサーを冷却でき、処理の少ない素のデータが得られる一方で、PC、制御機器、ガイド鏡、各種ケーブルを組み合わせる必要があり、準備と操作に手間がかかります。

ArcBlue C42は、「ミラーレスカメラのように単体で撮影できる手軽さ」と「冷却カメラの画質とデータ」を1台にまとめた製品です。ミラーレス用のネイティブマウント、撮像センサーによるガイド機能、専用操作画面を備え、2種類のカメラのあいだにあった空白を埋めます。

ArcBlue C42
C42カメラ、Pulsar赤道儀、HALO CAAで構成したシステム

C42の5つの特長

1. カメラレンズをネイティブ制御し、INDIGO対応機器とも連携

カメラレンズを装着したC42
ネイティブマウントでカメラレンズを直接装着

C42は、レンズの電子制御をカメラ本体から直接行います。Sony E、Nikon Z、Canon EFのネイティブマウント版を用意しており、対応レンズのオートフォーカスと絞りを電子接点経由でカメラから操作できます。ミラーレスで使っているレンズを、マウントアダプターなしで冷却カメラに使えます。

さらにC42は、オープンな天体機器制御フレームワークであるINDIGOに対応しています。INDIGOドライバーで動く電動フォーカサーやフィルターホイール、お手持ちの赤道儀なども、C42と組み合わせて使えます。

2. 撮像センサーで直接ガイドする独自技術GWI

撮像センサーの一部をガイドに使うGWI
メインの撮像センサー上の星像を使ってガイドするGWI

GWI(Guide While Integrate)は、共同創業者のShen Feichen氏が考案したArcBlue独自の特許技術です。メインの撮像センサーで長時間露光を続けながら、同じセンサーからガイド用の短時間露光を並行して読み出し、星の位置を赤道儀にフィードバックします。ガイド鏡もガイドカメラも必要ありません。撮影とガイドが同じ光路を通るため、ガイド鏡と主鏡のたわみの差は原理的に生じず、レンズや望遠鏡を交換してもガイド機能はカメラ側に残ります。GWIのガイド精度は±0.5ピクセルです。

撮像中のセンサーから同時にガイド信号を取り出すには、センサーの読み出しそのものを設計し直す必要があります。長年イメージセンサーの解析に取り組んできたShen氏だからこそ実現できた方式です。2018年に初めて読み出しに成功して以来、GWIはC42の中核技術として開発が続けられてきました。

3. センサー読み出しから始まる天体専用のカメラ内処理

ArcBlue Astro ISP
天体撮影のために独自開発したISP

天体撮影のために独自開発したISPにより、センサーの読み出し段階から補正処理を行います。不良画素の補正、ダーク・フラット・バイアスによるキャリブレーション、HDR合成をカメラ内で行い、PCでの前処理の手間を減らします。

4. 赤道儀と連携したモザイク撮影

赤経・赤緯軸とHALO CAAの回転軸
Pulsarの赤経軸(RA)、赤緯軸(DEC)とHALO CAAの構図回転軸

Pulsar赤道儀と構図回転機構HALO CAA(Camera Angle Adjuster)が連携し、星雲・銀河のモザイク撮影や、広角レンズでの星野モザイク撮影を自動で行います。2026年10月からソフトウェアアップデートで順次提供される予定で、将来的には地上風景を含むパノラマ合成への対応も計画されています。

5. カメラ内HDR合成で最大29段のダイナミックレンジを16bit RAWに

日食撮影でのHDR露出
露光時間の異なるフレームを連続撮影し、カメラ内で1枚のRAWに合成

独自開発のHDR合成(HDR RAW Fusion)は、露光時間の異なる複数のフレームを連続撮影し、カメラ内でキャリブレーションと合成を行って16bit浮動小数点のDNGとして記録します。IMX410の1回の露光は14bit・14段ですが、合成によって最大29段のダイナミックレンジを1枚のRAWに収められます。皆既日食の撮影では、1/10,000秒から1秒までの5段階の露光を2秒足らずで撮り終えました。


このブログでは、C42を4回に分けてご紹介します。第1回では、C42の構成、従来の撮影機材との違い、撮影の流れをまとめます。画質、追尾とガイド、光学系の選び方や屋外での運用は、第2回以降で詳しく取り上げます。各機能の開発状況は、記事後半の表にまとめています。


C42はどんな製品か

C42は、冷却カメラ、赤道儀、構図回転機構、操作画面をひとつの操作体系にまとめた天体撮影システムです。撮影レンズや望遠鏡は含まれず、お手持ちのカメラレンズや望遠鏡と組み合わせて使います。

一体型のスマート望遠鏡をコンパクトカメラにたとえるなら、C42はレンズ交換式のミラーレスカメラシステムにあたります。スマート望遠鏡は光学系が本体に固定されていますが、C42は撮りたい画角に合わせてレンズや望遠鏡を選べます。

システム構成

C42システムの構成機材と組み合わせ
C42カメラ、HALO CAA、Pulsar赤道儀、タッチスクリーン、カウンターウェイトバッテリー、三脚の組み合わせ。レンズ・望遠鏡は含まれません。
機材役割
C42カメラフルサイズのカラーセンサーSony IMX410とTEC冷却を備えた撮像部。撮像センサーでガイドするGWIを搭載しています。
Pulsar赤道儀波動歯車減速機と高分解能エンコーダーを備えた、クローズドループ制御の赤道儀。標準のPulsarと、より搭載重量の大きいPulsar Heavyがあります。
HALO CAAカメラをレンズ・鏡筒ごと回転させ、構図の向きを調整する機構。
マグネット式タッチスクリーン星図からの天体選択、撮影設定、ライブビューの確認、データ管理を行う専用画面。カメラに取り付けたままでも、外して手元でも使えます。
カウンターウェイトバッテリー赤道儀のバランスウェイトと電源を兼ねるバッテリー。
スマートフォンアプリ撮影した画像をスマートフォンに転送します。

カメラ、赤道儀、構図回転部は分けて収納・運搬でき、撮影地や対象に合わせて光学系を選んで持ち出せます。

従来の撮影機材との違い

冷却CMOSカメラ構成との違い

C42と同じSony IMX410を採用したカラー冷却カメラには、たとえばToupTek SkyEye24ACがあります。冷却CMOSカメラで同様の撮影を行う場合は、カメラに加えてガイド鏡とガイドカメラ(またはオフアキシスガイダー)、制御機器、赤道儀、電源を組み合わせる必要があります。

項目C42冷却CMOSカメラ構成(例:SkyEye24AC+StellaVita)
センサーIMX410(カラー)IMX410(カラー)
記録ビット数14bit/HDR合成時は16bit浮動小数点14bit
ガイド撮像センサーによるGWIガイド鏡+ガイドカメラ、またはオフアキシスガイダー
制御機器カメラ本体と専用タッチスクリーンStellaVita(別売)
赤道儀Pulsar(セットに付属)別途用意
構図回転HALO CAA(カメラと光学系をまとめて回転)別途用意
カメラレンズの接続ネイティブマウント。対応レンズはAF・絞りを電子制御マウントアダプター経由
電源カウンターウェイトバッテリー、USB-C外部電源12V外部電源(StellaVitaから各機器へ給電)

冷却CMOSカメラ構成には、赤道儀とカメラを自由に組み合わせられ、モノクロカメラやフィルターホイールなど周辺機器の選択肢が多く、制御システムの運用実績も豊富だという利点があります。C42は、こうした構成で個別に用意していたガイド、制御、構図回転、電源をカメラと赤道儀にまとめ、カメラレンズでも望遠鏡でも同じ手順で撮影できるようにしています。

一体型スマート望遠鏡との違い

一体型スマート望遠鏡とC42
一体型スマート望遠鏡(左)とC42(右)

スマート望遠鏡側の数値は、2026年9月時点の代表的な構成を基準にしています。

項目一般的なスマート望遠鏡C42
光学系内蔵。焦点距離と口径は固定対応するレンズ・望遠鏡を選んで使用
センサー1/2.8型〜1/1.2型程度の小型センサーが中心35mmフルサイズ(約36 × 24 mm)
画素サイズ2〜2.9 µm程度が多い5.94 µm
センサー冷却標準機能ではないTEC冷却(最大出力時、外気温より30°C低く)
1枚あたりの露光時間数秒〜数十秒が中心最長600秒(撮像センサーでガイドしながら撮影)
光学系の交換別の機種に買い替えが必要カメラ・ガイド・操作手順はそのままで、光学系だけを交換

画質の良し悪しは、センサーサイズや画素サイズだけで決まるわけではありません。違いは、光学系と撮影データをどこまで自分で選べるかにあります。

広角レンズで天の川と地上風景を、中望遠で大きく広がる星雲を、望遠鏡で小さな銀河を。1台のカメラで、撮影対象に合わせて画角を選べます。望遠鏡用にはM68接続版を用意しています。撮影データはFITSとDNGで出力され、PCに持ち込んで画像処理を行えます。

撮影の流れ

C42は、これまで複数の機器とソフトウェアで個別に行っていた撮影前の準備と撮影後の画像処理を、ひとつの操作体系にまとめています。

撮影前の準備:C42と従来の構成
撮影前の準備。C42の準備例(左)と従来の準備例(右)
撮影後の処理:C42と従来の構成
撮影後の処理。C42の自動処理(左)と従来の画像処理(右)

カメラを天頂付近に向けたときは、マグネット式タッチスクリーンが便利です。画面を外して手元で構図とピントを確認でき、撮影操作のためにスマートフォンがふさがることもありません。

開発状況

C42は現在も開発中です。2026年10月時点の各機能の状況は次のとおりです。

状況機能
ベータ版で利用可能(V0.1〜V0.3)自動導入とプレートソルビング、極軸合わせのガイド表示、追尾、ライブビュー、オートフォーカス、HALO CAAによる構図調整、FITS/DNG記録、ダークキャリブレーション、赤道儀の子午線反転、OTAアップデート
ベータ版でテスト中(V0.4)撮影フローに統合したGWIガイド、シーケンス撮影、撮影後のカメラ内スタック、フラット・バイアスを含むキャリブレーション
開発中・計画中ワンタッチのモザイク撮影、撮影の一時停止・再開とHALO CAAの再アライメントを含む子午線反転、タッチスクリーン上のライブスタック、HDRの操作画面(HDRエンジンは完成済み)、HALO CAAによる露光中の視野回転補正、3軸制御による極軸補正、地上風景を含むパノラマ合成

開発中・計画中の項目は開発の方向性を示すもので、各機能の提供時期を確約するものではありません。仕様と機能は、今後の開発により変更される場合があります。

開発チームについて

デスバレーでのフィールドテスト
米国デスバレーでのフィールドテスト

ArcBlueは、長年天体観測に取り組んできたメンバーが立ち上げたブランドです。製品名のC42は、新疆星明天文台の観測所コードです。共同創業者のChen Song氏は同天文台で、当時中国最大のアマチュアによるサーベイ望遠鏡を運用し、超新星や小惑星などの発見に携わりました。こうした活動から、小惑星807098番には同氏の名前(Chensong)が付けられています。

Chen Song氏は、長年にわたり光学機器の開発にも携わってきました。2026年には、同氏が共著者として参加した天体カメラ(IMX455を2基搭載)の性能評価論文が、米国の天文学術誌PASPに掲載されています。

もう1人の共同創業者Shen Feichen氏は、米国で博士号を取得したエンジニアです。一眼レフカメラのイメージセンサーとファームウェアの解析で知られ、天体撮影向けに改造された一眼レフカメラの多くが、同氏の解析成果をもとにしています。

長時間無人で動き続ける観測設備づくりと、センサー読み出し制御という2つの経験が、カメラ・赤道儀・ガイドをひとつのものとして設計するC42に生かされています。

価格と国内販売

価格とセット内容

C42システムの希望小売価格は4,999米ドルです。Kickstarterでは、Super Early Bird価格の3,799米ドルで支援を受け付けています。

セットには、C42カメラ(HALO CAA、マグネット式タッチスクリーン付き)、標準のPulsar赤道儀、カウンターウェイトバッテリー、三脚、ケーブル2本が含まれます。Pulsar Heavyへのアップグレードは有料オプションです。レンズ・望遠鏡は含まれません。SSDは支援時に追加するか、お手持ちのSSDを使用できます。

C42システムのセット内容
①C42カメラ ②HALO CAA ③Pulsar赤道儀 ④マグネット式タッチスクリーン ⑤ケーブル2本 ⑥カウンターウェイトバッテリー ⑦三脚

Kickstarterでの支援

C42は日本時間2026年10月14日からKickstarterで支援の受付を開始し、開始から1日で目標金額の10倍を超える支援が集まりました。

Kickstarterのプロジェクトページから直接支援できます。支援価格、リターンの内容、配送はKickstarterの記載に準じます。クラウドファンディングは開発中の製品への支援であり、仕様や出荷時期は変わる可能性があります。最初の出荷は2027年2月の予定です。

Kickstarterでプロジェクトを見る

国内販売とサポート

天文ショップグラビティ(Gravity)では、ArcBlue製品の国内販売を予定しています。国内販売の価格と時期は、決まりしだいお知らせします。

Wi-Fi・Bluetoothの技術基準適合証明(技適)は現在申請中です。

Kickstarterで支援された方も含め、国内のサポートと修理は天文ショップグラビティが担当します。ArcBlueで技術研修を受け、メーカーと同等の専門性を持ったサポート体制を整えていきます。

次回予告

第2回では、フルサイズセンサー、TEC冷却、HDR合成を中心に、C42の撮像性能をご紹介します。

参考:ArcBlue C42 公式サイト/Kickstarter/開発の進捗/チーム紹介

主な仕様

C42カメラ

項目内容
センサーフルサイズ Sony IMX410 CMOS(カラー)
有効画素数約2,400万画素
画素サイズ5.94 µm
冷却TEC冷却(ΔT 30°C)
内蔵ストレージカメラ:8 GB eMMC+最大2 TB SSD(SSDは別売またはお手持ちのもの)/専用画面:128 GB
マウントSony E/Nikon Z/Canon EF(各マウント版)、M68(望遠鏡接続版)
バッテリー駆動時間(1本あたり)冷却オフ:最長約5時間/冷却出力100%(ΔT 30°C):約2時間。バッテリーのホットスワップとUSB-C PDによる外部給電に対応
通信・インターフェースWi-Fi/ギガビットイーサネット/USB-C/Bluetooth/USB 2.0
カメラ重量0.8 kg
フィルターM68版:電動フィルターホイール・フィルタードロワーに対応/Sony E・Nikon Z版:各マウントの一部のクリップインフィルターに対応/Canon EF版:フィルタードロワー内蔵/レンズ前面フィルターはレンズのフィルター径に合わせて使用

Pulsar赤道儀

項目PulsarPulsar Heavy
搭載重量カウンターウェイトなし3 kg/最大5 kgカウンターウェイトなし11 kg/最大13 kg
赤道儀重量2.12 kg4 kg
項目内容(共通)
追尾軸赤経・赤緯軸+HALO CAAによるカメラ回転軸
駆動方式赤経・赤緯軸に波動歯車減速機
モーター制御クローズドループのサーボ制御
エンコーダー23-bit
追尾精度(ノータッチガイド)1分あたりの追尾誤差1秒角以下
GWIガイド精度±0.5ピクセル

仕様は2026年10月時点のものです。製品版では変更される場合があります。